2007/05/04

Wikipediaにおける不可解なデネット像

最近Wikipediaの哲学に関する項目が結構充実してきたねえ。
と思って、私がつい最近まで携わっていた(が私は頭が悪い上努力もせず(謙遜でなくマジで)、故に大してモノにはならなくて、結局ドロップアウトしてしまったのだが)心の哲学分析哲学に関する項目をペラペラ見てたのだが。
ぱっと見た感じでは、少なくともデネットの項目は非常に不正確だ。
うわあ、ひでえ。
読み方の違いでどうこうというより、単に、デネットの基本的な立場を完全に捉え損なっている。
私は学生の時分デネットを主な研究対象のひとりにしていたこともあって、デネットには思い入れがあったりなかったりするので、ヒトコト言っておこう。
断続平衡において「進化には連続性が途切れる地点がある」なんてことはグールドもデネットもこれっぽっちも言ってないし(どこからこんな誤解が出てきたのか非常に不思議だ)、ライフゲームが複雑化したときに単に予測が難しくなるんじゃなくて、人間にとって、物理的スタンスからの予測が難しくなって設計的スタンスや志向的スタンスを使った方が効率よくうまく予測することができる、ということをデネットは言っているのだ。
[2007/05/08追記:さっき一寸見返してみたところ、私が間違っていた。実際のところは「予測不可能なパターンを産み出すことを明らかにする」とは恐らく「どのようなパターンが見られるのかは予測不可能である」ということを意味しようとしているのだろう。後ろの「明らかにする」がイマイチ意味不明なのだが。「予測不可能なパターン」という記述を、「パターンを示しているにも拘わらず、それが予測不可能である」というような字義通りの矛盾した意味でとってしまって、余りにも意味不明だったので、私はこの記述に過剰に反応してしまった。デネットの通常の言葉の使用の仕方においては「パターン」は予測可能でなければならないのです。という訳で、慈悲が足りなかった。(まあWikipediaのこの記事が全く以て正確でないことには変わりないけど。)このことからも私の頭の悪さは証明される。]
そういや断続平衡についての誤解はNewtonでもあったなあ。科学雑誌にあるまじき。
因みに断続平衡については、グールド本人の著作もいいが、キム・ステルレルニーの『ドーキンスvsグールド』が手軽で解り易く色々参考になる。(Amazon→『ドーキンス VS グールド』)ちぇけら。
Wikipedia内の断続平衡説も参照のこと。

それから特に「デネットによれば、人間の自由意志とは自然の進化によって産み出されたものであり、したがって人間の生をより良くするものにほかならない。科学の発展を通して自由を自然主義的に理解することが人間の生活を向上させていくとデネットは結論する。」ってのはまるっきり嘘っぱちなので、というか逆のこと言っているので、これを読んで、デネットって頭のおかしい神秘主義者かなんかなんだなと思ってゲンナリする必要は無い。
私は自分の論文では最終的にはデネットとは細かい部分で違う立場を採ったのだが、それでも、サールネーゲルウィトゲンシュタイン・・・etc.あたりと同様に、心の哲学やるなら一度は読んどくべき哲学者だ思うし(エンターテインメントではなく普通に心の哲学やるなら茂木健一郎の本なんかさっさと窓から投げ捨ててしまうべきだ。私の窓の外には何故か・・・後略。彼には沢山ゲンナリさせられた悪い思い出があるのです。)、非常に面白い哲学者ですから、これから心の哲学を勉強しようと思ったりデネットを読もうという人は、このWikipediaの記事を読んで挫折しないように。
で、この記事のこの部分の問題点の一つ。
設計的スタンスによって説明される生物進化が志向的スタンス無しに説明され得ないような「人間の生」をより良くするとかいう物言いは、デネットが注意しろと繰り返し言ってたじゃないか!
てゆーかそりゃダメ適応主義者の主張だ。
キョービ、批判で揉まれた(筈の)社会進化論者でもそんなアホなこと言わんやろぉ(多分)。チッチキチーやで。往生しまんで。
デネットはグールドに比べればまあ適応主義に近いと言えるだろうが、これ程行き過ぎた適応主義では全くない。
因みにミームの進化でさえ人間の生の良し悪しとは対応関係にない。
それに自由は自然主義的に理解するものでは断じてない!というのがデネットの主張なので、これはデネットとは真逆のことを言っているのだ。
デネットの最大の功績のひとつである志向的スタンスと物理的スタンスの区別を、このWikipediaの記事では全く以て忘れてしまっているので、ダメなのだ。
というような感じで、色々なところで、まるっきり間違っている記事である。
デネットは、ちゃんと神秘や奇跡に訴えることなく物理的決定論と人間の自由とを両立させてますので。
Amazon→『自由は進化する』

因みにもう一人の私のメインの研究対象であったローティは、多分こっちの方がデネットよりよっぽど有名なんじゃないかと思うんだけど、なんか未だ殆ど書かれていないようだ。

それから、今日は沢山Wikipediaへのリンクを張ったけど、そのリンク先の記事が正確かどうかはちゃんと見てないので悪しからず。
最近Wikipediaもなんか記事の正確さについての権威を失いつつあるように見えるからなあ・・・。