2019/06/19

産まれ直し

人生を、やり直すことに成功した。
時間を遡り、産まれるところから。

どうやったのか、詳しくは覚えていない。
或は何か偶然が幾つも重なった結果だったのかも知れない。
然し兎も角、成功したのだ。
前の人生は、とても下らないものであった。
慥か狭く暗い部屋で、何をするでもなく只漫然と生き、只漫然と死んだのではなかったか。

そして特に何を成すでもなく、12年が過ぎた。
私は12年も何をしていたのだろう。
もっと何かできていた筈だ。
でもまあ、今からでも株でもやって儲けて人生お手軽。
然し株の騰落のタイミングを覚えてないや。
任天堂辺りはどうだったか。
Back to the Future IIのあいつはどうやってたんだったか。
慥かレコードブック的なヤツか。それは無いしなあ。どうすっかな。
なんてことを、小6の私は小学校の階段を4階まで上り、教室に入って自分の席を探しながら思って居た。

教室の窓から下を覗くとカマドウマでも居そうなジメついたスペースと小学校の敷地の境界を示すフェンス、そしてその向こう側に道路やマンションが見え、当に私の通っていた小学校であった。
席は、真ン中より少し右寄りの列の一番後ろ。
左隣に大学生の頃の友人Rが居て、彼もまた産まれ直したようだった。
私はこの現象を「産まれ直し」と、自分の中だけで命名していた。
彼もまた、自分の前の人生を下らないものと考えていたのだろうか。

右隣は知らない奴で、彼も産まれ直しに違いなかったのだが、私は彼に私の産まれ直しであることを知られないようにした。
彼の方では疑ってはいるらしいが・・・。
彼の見た目は小中学時代の友人Yの面影があったが、然し別人である。

今日は体育館で保健の授業があるらしかった。
そういえば今日来るときに、体育館に椅子が並べられていたのを見たが、私は誰かクリスマスパーティーでもやるのかと思って居た。
保健の授業の為のものだったのか。
私は体操服を持って来ていなかったので、保健と聞いて安心した。
と同時に、中身は大人であるにも拘らず学校行事のスケジュールを把握していない自分に失望と焦燥を覚えた。

私は隣の席のRとオカルトというものについて話す。
彼はオカルトをバカにする立場であったか、或は話の流れ上、少し過激めの態度を採ったに過ぎなかったのかも知れなかった。
私が概ね同調しつつ何か言おうとしたとき、担任が隣に来て成績表ともテストの結果ともつかぬものを私に渡した。
生徒各々に配って歩いているようだ。
3cm x 5cm程の大きさの紙に、ファイナルファンタジーにでも出てきそうな少し複雑で奇妙な形の印が押してあり、それが私の成績か何かを表しているようであった。
はなまるのようなものだろう。
私は担任に対して何故か咄嗟に堅苦しい論文調の言葉遣いしか返すことができず、私が産まれ直しであることの左証を少しでも漏らしてしまったことを内心恥じたが、担任の方では、ガキが大人のような口を利くことを少し面白がるように私の言葉を小さく繰り返しながら視線を外し、私の前の席の人物にその成績表だかテストだかを渡す為に歩き去った。

私はRに話の続きをする。
「例えばやで?新しいピラミッドが見つかるとするやん?
中にどの王が入ってるか未だ誰も知らん状態。
そのとき、未発見の王の中からテキトーな王の名を選んで、そいつが入っているってことで、偽の情報を流す。
そうすると、そのテキトーな王の幽霊が『出る』んやて。
ほんで発掘が終わるやん?正しい王の名が判るやん?当然、別の王の名前な訳やねん。
ほんならさァ、今度はその王とテキトーな方の王との同一説が生まれたりするんやて。
物語の『合理化』っつうか『首尾一貫化』っつうか、拳振り上げたら只じゃ下ろせん、みたいなことが起こる訳やね。」
などと、テキトーな作り話をする。


というような夢を見た。
鳥がベランダのフェンスに止まって居るのを感じながら、目が覚めた。
カーテンを薄く開くと、烏であった。