2020/01/18

黒いシミの付いた鼠色のパーカー

私は大抵いつも何かを酷く後悔しながら生きているのだが、一つのことを後悔し続ける時間は長く保っても精々1時間程度に過ぎない。

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どうやら私は、何日か前に人を殺したようだ。
思い返してみれば、別に劇的に恨んでいた訳ではないように思える。
一瞬の激情に駆られた訳でもないし、殺人の工程をきちんと計画した訳でもない。
何かの間違いで殺してしまったのではないし、どうしても殺さざるを得ないような状況に陥った訳でもない。
只、殺そうと思って、殺した。
只、一寸した苛立ちが積み重なって、ああ殺そうと思って、殺した。

鼠色のパーカーと黒のパンツに染み込んた血がもう黒くなって固まっている。
そうだった。こんなところに隠していたのだった。
こんなところ、簡単に見つかってしまう。
隠し場所を変えたいのだけれど、どう持ち出しても人目に付く。
うまく持ち出すことができれば、細切れにして毎日少しずつ焼いて、ゴミとして捨てるなり下水に流すなりできるのに。
あんなしょうもないヤツを殺してしまったばっかりに。

ああ、面倒なことになった。
あんなしょうもないヤツ、殺さなければよかった。

併しどうやって殺したのだったか。
恐らく包丁で刺したんだろう。そんな気がする。
包丁で刺すという行為が、あいつと私の関係性を示すのに一番相応しいと思う。

でも刺したにしてはパーカーに付いた血が少ないように思える。
死体も、どうしたか覚えていない。
でもうまく処分したような気がする。
じゃあ何故服だけがここにあるのだろうか。
多分、夜の間にここに隠したのだが、そのときはここがこんなに人目に付く場所だとは思わなかったんだ。
馬鹿だなあ、私は本当に馬鹿なんだなあ。
一寸その気になって想像力を働かせれば簡単に解ったことなのに。
ちゃんと考えなければならないところで、私はいつも考えることを面倒臭がるのだ。
想像力を行使しない人達を私は馬鹿にして嫌悪しているが、そうだった、私もその一人だった。
馬鹿であるということは、とても不安なので、それで居直っているうちに、自分が馬鹿であることを忘れてしまうのだ。

これがこんなところにある所為で、私の殺人が露見してしまう。

ああ、面倒なことになった。
あんなしょうもないヤツ、殺さなければよかった。

・・・という夢を見た。