2020/03/12

正当性の階段、或は「マナー」

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「マナー」という発語に吐き気を含むのは、それが私の見立てでは大体その原料の8割程度が「アイツら死んだらええのに」という魂から錬成されているからだと思われる。
残り2割は偽善と虚栄心から成るコーティング剤であり、その上にインクで「正義」と印刷してあるだけなので、見た目は偽善乃至虚栄心なのである。
インクの中にはもしかしたら1モル程度の少しは取るに足る有効成分が含まれているかも知れないが、殆どの場合で環境や人体への影響を無視できる量である。
要するに、大体の場合、私の口から「マナー」という語が漏れたとすると、それは基本的には私の腐った臓物の臭いのする呪いの言葉が吐かれているということと大体等価と考え得る訳だ。

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私は、慥か助手席に座っていたように思う。
後ろには下手糞な幇間のような振る舞いが目立つ後輩が二人乗っていたと思うのだけれども、今は疲れたのか大人しく座っている。
運転しているのはお笑いタレントの某とか云う人物であったと思う。
彼のことはよく識らないし、彼に対して特には何の感情も抱いていない。
只、会えば話ぐらいはする間柄である。
彼はテレビでワイドショー的な番組(この世で私が最も蔑み嫌悪するものの一つである)に出ているらしいのだけれども、私はテレビを持っていないのでそれを見たことがない。

4人で、黒だか白だかのセダンに乗り込んで、どこかに向かわなければならなかったのだったか。
右手には遠くにどんよりと曇った砂浜が見えている。
高速道路だ。
何の話の流れだったか、運転手のお笑いタレントが、最近マナーが悪かったり鈍臭かったりして迷惑な車が多いな、というようなことを言う。
私はそれが私の嫌悪するところのワイドショー的な薄っぺらい偽善や頭の悪いニセ科学に当たるのか内心吟味しつつも、その話に乗っかることにして、「ほんまですわ。歩きタバコとかしてる奴はタバコ奪って目ン玉根性焼きしたってもいいとかいうふうにしたったらよろしねん。」などと、わざと過激さを過剰に上乗せしたことを言って相手の様子を伺う。
私としては、LEDライト上げて走ってるチャリにどのような私的制裁を加える権利があるのかについて議論する遊びをしてもよかったのだけれど、然し話は余り過激な方には進まず、交通上でどういう奴が鬱陶しいか、といった話題に流れる。

このようにして他人を蔑んだり呪ったりすることで自尊心を維持しようとする姿勢に弱くて厭な人間の臭い、つまりは同類の臭いを彼に感じて微笑ましく思うと同時に、私が私自身に感じている危うさを彼にも感じるのであった。

私は私の登って来たと思っていた正当性の階段が所々崩落していたのを知って、どうやって私が今ここに立っているのか思い出せずにいる。
まあでも、程度の差はあれど、普通そんなもんだろう。
それで張ってもしょうがない意地だとか、張ってもしょうがない胸なんかを張って、どうにか騙し騙しダメ人間をやっているのだ。
でもそれはいいことじゃない。

外は雨で路面が黒くヌラヌラと光っている。

そんな話で盛り上がっていると、お誂え向きに前方にフラフラとした鬱陶しい運転をする車を発見した。
我々の右をタクシーが苛立った荒い運転で抜き去ろうとしている。
先は緩やかなカーブになっているが、視界は悪い。
と思っていると、運転手のお笑いタレントの彼がアクセルをフかしてタクシーに付いて行こうとしている。
「おいやめとけ」が喉まで来て止まってしまった。
カーブを曲がり切ったところでタクシーの後ろに付いて、左やや後ろにフラフラした車を抜いた。
そこでタクシーがスリップした。
少し先の右車線側にもう一台車が居て、それをタクシーが避け切らなかったのだ。
タクシーを避けようとして、我々の車は宙に浮き、左車線の更に左側の壁だか電柱だかに突っ込んで、潰れた。

ああ、これはあかんわ。
死んだ。
助かり様が無い。
体がグチャグチャに潰れた。
痛みは無かった。
即死ということか。
「やめとけ」ってちゃんと言っとくべきだったな。

あれ?意識はあるぞ?
死んではないのか。
痛みは無いんだけど。
体はグチャグチャだけど。
助かるのか?助かるとも思えないけど・・・。
まあそのうちすぐ死ぬんだろう。
しょうもない。しょうもない死に方や。こんなんで終わりなんか。
でもなかなか死なんな。
けど痛みも何も感じない。特に何の苦痛も無い。
あれ?もう死んでるのか?
意識あるし死んでるってことはないと思うんだけど・・・。

・・・という夢を見た。